見えない貧困 貧困がもたらす教育格差
私たちが取り組む社会課題目に見えにくい貧困
日本においては約6人に1人の子ども達が平均所得の半分以下の水準である相対的貧困の中で暮らしています。日本の子どもの相対的貧困率は先進国の中でワースト9位であり、ひとり親世帯に限ると50.8%とワースト1位です。ひとり親世帯で月額約14万円、親子4人世帯で月額約20万円程度で暮らす子ども達が存在しています。また、子どもの相対的貧困率は1980年代半ばから緩やかな上昇傾向を示してきました。好景気の時期ですら貧困率が低下することもなく、ましてや上昇しており、将来の夢や希望を失っている子ども達が増え続けています。子どもの貧困は、見ようとしなければ見えない課題として進んでいます。
- 相対的貧困状態の子どもの数は約320万人
現在、相対的貧困状態にある子ども達は約320万人に達しています。このうち、児童養護施設で暮らす子ども達や生活保護世帯の子ども達が、行政の支援がある「目に見えやすい貧困」にいるとすると、それ以外で90%の相対的貧困状態にある世帯で暮らす子ども達は「目に見えにくい貧困」に苦しんでいると言えます。こうした子ども達に良質な教育機会を提供し、社会に送り出すことは、将来の日本の経済力を維持する上でも重要です。
- 個人の努力だけでは挽回が難しい学力格差
貧困による教育格差は個人の努力により挽回できるのでしょうか?右に示されているように、最にも社会経済的背景(SES)の低い環境の子どもが3時間勉強したときの正答率(71%)は、最にも社会経済的背景の子どもが勉強しないときの正答率(74%)を上回ることはできません。これは、経済的に厳しい環境の子どもが頑張っても、経済的に豊かな環境の子どもに追いつくのは難しいというのを表しています。貧困による子供の学力格差は、個人の努力の問題ではなく社会システムの問題だと言えます。
- 不平等な社会の仕組みである貧困の連鎖
貧困がもたらす不利益は年齢とともに蓄積されていき、大学進学や正社員としての就職の道が閉ざされるなど、子ども達の様々な可能性と選択肢を制約します。その結果、不安定な労働や生活に陥り、大人になってからも継続して貧困の中におかれる可能性があります。子ども時代の貧困は、現状に影響を与えるだけでなく、長期にわたって固定化し、世代間を超えて次の世代へと引き継がれる可能性を含むという、「容認できない不平等な社会の仕組み」によるものです。
私たちが取り組む社会課題学ぶ権利を奪われている子ども達
「学校」に通えない子ども達が増加しています。日本には義務教育を受ける場所は学校しかありません。子ども達の学ぶ権利を保障するためには学校以外の選択肢が必要とされています。
- 不登校児童数
文科省調査では、2021年度の小・中学校の不登校の児童生徒数(30日以上の欠席)は、コロナ禍の影響もあり、24.4万人と前年度19.6万人から24%増と急増しています。更に深刻なのは、うち、90日以上の長期欠席児童数が全体の約55%の13.4万人となっており、子ども達に保証されている義務教育を受けているとは言えない状態になっています。
- 社会から孤立していく子ども達
不登校の子どものうち、不登校児童の36.3%に当たる約8.9万人が、学校内外で何らの相談・指導等を受けることができておらず、社会から隔絶された状態にあります。更に、相談が受けられたとしても、不登校支援においては相談を受ける機関の質・量・ネットワーク・支援の担い手は不足しており、そこから適切な居場所や支援に繋がるケースは決して多くないのが現状です。
- 貧困と不登校の関係
学校教育法上の”学校”以外の学びの場を選ぶ場合、公の補助はありませんので、フリースクールの授業料は全額家庭負担となるケースがほとんどです。2015年の調査では、フリースクールの全国平均の授業料は、月額33,000円となっており、保護者の経済的負担は大きく、経済的理由からフリースクールを選択できないケースも存在しています。不登校児童を対象にした調査では不登校だった子ども達の約30%がひとり親世帯の子ども達だっという調査結果もあります。
私たちが取り組む社会課題社会的投資としての貧困への取り組み
将来の日本を支えるのは子ども達です。貧困に苦しむ子どもを減らし、すべての子ども達に質の高い教育機会を提供することは回り回って考えれば、子ども達が成長しきちんと働いてお金を稼ぎ、国の経済力を高め、将来の納税者を増やすことにつながります。つまり、日本という国にとって、子ども達への教育支援は、子どもが可哀想だから助けるべきということでなく、将来の日本の国力を高めるための重要な「社会的投資」だと言えるのではないでしょうか。
- 現役世代1.4人で高齢者1人を支える時代
現在の日本が直面している「少子高齢化」の問題は、将来の労働力が減少し、国の経済力が衰え、豊かさを失うリスクがあるということにほかなりません。2015年には、1人の高齢者を現役世代(15~64歳の者)2.3人で支えていますが、少子高齢化が進み30年後の2045年には、1人の高齢者に対して1.4人の現役世代が支えるという比率になります。将来、少子化が続くと、子ども一人ひとりが今以上に重要な役割を果たしていかなければならないとも言えます。
- 教育支援の投資収益率は15〜17%
イギリスでは、子どもの貧困を含む社会的問題を予防しなかったことにより、年間27兆円にも及ぶ社会的なコストがかかっていると報告されています。また、アメリカでは、所得や労働生産性の向上、生活保護費の低減など、子ども達への教育支援を実施したことによる社会全体の投資収益率を調べると15〜17%という非常に高い数値が出たというデータも存在します。収益率が15〜17%というのは、1万円の投資が50年後に約1000万円になって社会に還元されるということです。
- 日本における教育投資の効果は4兆円
日本においても学習支援等の教育支援を実施した場合に、どの程度の経済効果が見込めるかという統計が発表されました。この調査では現在の15歳の1学年の貧困世帯に対して米国と同じような教育支援を実施し、通学率や就職率において同様の改善効果が出ると仮定した場合、子どもが成人になった後の所得の増加と所得増加に伴う税収や社会負担費の増加、生活保護費等の社会保障費の削減により、経済効果として約4兆円の効果が期待できると言われています。